
丘のうえのふたりのひつじ
丘のうえで、ふたりのひつじが草を食んでいました。
ひとりは、軽くしなやかな毛をまとい、
もうひとりは、厚みのあるあたたかな毛をまとっていました。
厚い毛のひつじが言いました。
「きみの毛、風が気持ちよさそうだね。」
軽い毛のひつじが答えました。
「きみの毛は、風の音を抱えているみたいだね。」
その日は陽射しが強く、丘の石がじりじりと熱を帯びていました。
ふたりはそれぞれの歩幅で、草を食み、影を探し、また歩きました。
夜になると、空気は澄んで、星がひとつずつ顔を出しました。
軽い毛のひつじが言いました。
「夜も、ちゃんとぬくいね。」
厚い毛のひつじが、小さな声で答えました。
「うん。風も、やさしいよ。」
ふたりは、丘の上で並びながら、 それぞれの毛を、夜の風にまかせました。
しばらく黙っていたあと、 軽い毛のひつじがぽつりと言いました。
「どちらの風も、ちゃんと似合ってるね。」
厚い毛のひつじは、ゆっくりうなずきました。
そしてまた、ふたりは並んで草を食みながら、 星の下で、同じ丘をわたっていきました。